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学生へのメッセージ [理学療法]

全国で臨床実習中の日本中の学生さんへ
特に 文京学院大学 学生は読んで!! 「臨床実習サブノートより」
是非参考にしてください。私が書いた分です。

1 はじめに       
 臨床実習が終了して大学に帰ってくる学生に合うと、実習に行く前に比較して数段成長していることを実感します。その中でも特に対人能力やメタ認知の向上を強く感じます。様々な環境でそれぞれ異なる実習を行うにも関わらず、このようなことが生ずることは不思議でもあります。近い将来自分が実際に仕事として行うことを、体験することが強くイメージされ、漠然としていた将来像が薄っすらと見えてくるのでしょう。ほとんどの学生が実習指導者に影響を受け、中には一生のモデルとなるケースもあります。教育機関が違っても臨床実習に関しては指導者も同じ道を通過したことで共感を生むことも多いと思います。さて昔も今も変わらないのは、学生は臨床実習をさせて頂いている立場であることです。そのような中で臨床実習において、学生の陥りやすいことを挙げ、その中から、臨床実習における心構えを中心に、「学生へのメッセージ」を述べさせて頂きます。
2 学生の陥りやすいこと 
 臨床実習は、強い緊張感の中で開始されます。実習指導者や担当症例との出会い、初期評価などをするうちに、知識や技術の不足を感じ、自分の知識、技術、態度の中で「うまくできない」ことを強く認識させられます。臨床経験の長い指導者から見れば、うまくいかないことは当然なのかもしれません。自分のしていることを第三者的にも見る能力があれば、落ち込みは少ないかもしれませんが、多くの学生は全てが精一杯になってしまい、自分のできなかったことを過大に感じる傾向にあります。しかしながら、この落ち込みは実習生誰でも感じることのように思います。「うまくいかない」ことは徐々に改善すれば良いのであって、それが臨床実習中に行う重要な「実習内容」でもあります。うまくいかないことをバネにすればよいのです。しかしながら「うまくいかない」ことが、自分の知識や技術の問題だけではなく、徐々に「自分自身がいけない」のだと思ってしまう場合があります。自己嫌悪です。自分の良くない所ばかりを集中してみてしまい、その程度を強めることもあり、徐々に臨床実習機能不全に陥ります。でも良く考えてみてください。あなた方はまだライセンスがありません。見習い状態です。
 私は良くスポーツを例に出します。例えば、初めてバスケットボールを触ったとします。硬さや弾み方に驚きます。シュートが初めから入る人はいないでしょう。ですが、初めからシュートが決まらないからと言って落ち込む人がいるでしょうか。通常は、どうやればシュートが入るようになるのかについて、「考え込む」のではなく「練習」をするはずです。、またこのことを当然だと思います。ダイビングでは、予め講義やビデオを見て学習したら、実際にスーツやマスク、フィンを装着して実技に入ります。ビデオを見ただけではライセンスも取れませんし、実際に潜ることなしに、ダイビングの楽しさも分かる道理がありません。全く同じように、スキーの教則本をいくら熟読しても滑れるわけではありません。滑る感覚、体重移動の方法についてはやってみないとわからないはずです。そのため何度も転びます。そして立ち上がっては転び・・・と繰り返して徐々に上手くなっていく。このような体験をしばらくしてから再び教則本を見ると、「書いてあったことはこのことか!」と合点がいく事はあるでしょう、また再びこの理論書が参考になることがあることは頷けます。ゲレンデで転んだ時に、「何故転んだのか」考え続けていても仕方ないのです。トライアンドエラーを繰り返しながら身に付ける必要があるのです。
 臨床実習も多くは同じではないでしょうか。実習から帰宅し、自宅の部屋の1か所を見つめて、「何故自分はできないのか」「自分には向かないのかな」と考えるだけで、できるようになるはずがありません。重要なのは「練習」すること、理学療法の実習生の具体的行動とすれば、「調べる」「練習する」「考える」などであり、「落ち込み続ける」ことが解決に至ることはありません。初学者の落ち込みの多くは、無意識のうちに「自分にできるはずだ」と考えていたことに起因するか、あるいはそのようなイメージがもともと無かった場合もあります。
 長年、スポーツをしてきた人が今までと同じようなプレーができないときに、その原因分析を詳細にすることは必要に思います。ですが、臨床実習はまだ初学者がほとんど実務を積まないまま、学校で修得したとされていることを現場で初めて応用する場面ばかりです。前述のようにできないものをできるようにしていくことが臨床実習であり、進歩発展することを要求されています。落ち込むなら何か一生懸命してからで良いのです。臨床実習中は、まだ落ち込むほどやっている状態ではありません。落ち込むならやるべきことをしてからからにしてください。
 また臨床実習中に指導者や他のスタッフ、担当症例あるいはその家族に自分がどう思われるかは多くの実習生がエネルギーを使う部分だと思います。多くの実習生が人に良く思われたいと思っています。しかし他人にどう思われるかというエネルギーを使い続けると、本質的なことへの焦点が外れてきます。また人前で緊張する傾向が出てきます。実習中に人前で緊張するなと言っても難しいと思いますが、そのことを自分で感じることが部分的にでもできれば、「あれまたやってしまった」と気付く。そのような気付きを何十回もするうちに、「人前で緊張するだけではない選択」もあるということに、少しずつ移行するものだと思います。実習指導者に質問された内容に答えられない場合にも「習っていない」、「実はそう思ってました」と言って自分の立場を守ろうとするのも同じ傾向のように思います。
 さらに、落ち込んでいるときには、自分の事ばかり考えてしまいます。とても他人のことにはエネルギーを注げないと考えてしまいがちです。ですが、皆さんの仕事はそうではありません。そのことに気が付けるか、またその時期が一体いつ訪れるか少し考えてみましょう。
3 ではどうしたらよいか     
 自分のことばかり考えている自分に気がつけば、他の人の力を借りる選択も思い浮かびます。学校の教員、友人、家族その他あなたの周囲には多くの人がいます。現状の話をするだけでも気が楽になることは多いです。自分の力の限界を感じられるのは大切なことなのです。
 またこのように自分に内向き思考になっているときには、他人に小さなサービスをすることは有効です。家族にお茶を入れる、友人の話を傾聴する。スタッフルームの掃除を自分からする、など何でも良いのですが、他人に向かう事をすることは機能します。静から動へ、内向きから外向きへ少しずつ始動する。自己嫌悪をしていたら、一旦止まってそのことに気付いた自分を褒めてあげてください。実習中にすることは兎に角、行動であって欲しいと思っています。何と言っても臨床実習では対象症例がいるわけですから、その方にとって有益なことを考える。自分の事より他人を優先させる事ができる瞬間があればこの泥沼状態から抜け出せます。
 落ち込んでいることが認知できるのであれば、それを止めるのが合理的です。しかし簡単に止めることができない人も多いと思います。そのために実習中の必要な具体的行動を行うことが必要です。「調べる」「練習する」「考える」などです。落ち込んだままの状態で良いので、これらの行動を起こすのです。
 実習ではコミュニケーション能力が不可欠だと言われます。コミュニケーション能力というと漠然とするかもしれませんが、「聞く、話す、見る」能力と言えばわかりやすいかもしれません。あるいは難しい問題ほど細切れにすると良いことがあるように、その瞬間、瞬間に「しっかり聞く」、その瞬間に「しっかり話す」、「しっかり見る」ということを行うようにしたらどうでしょうか。
 さて実習指導者も人間です。理学療法のあらゆることを分かって実践している人はいません。さらに人間的に崇高な方は多いと思いますが、年齢を経ても人間的な成長に乏しい人も残念ながらいます。実習指導者が理想的な人であればラッキーですが、そうで無ければ自分の成長のチャンスだと思って、良い所を取り入れれば良いのです。あるいはその方々も成長の途上を歩んでいると理解しましょう。皆さんは学生である前に人間として正しいと思うことを判断することが重要です。臨床実習中は人としての成長に結びつく事がほとんどだと思いますが、まれに理不尽なことが無いわけでもありません。この判断に窮したら即座に信頼できる教員などに相談することが重要です。また自分が実習指導者、担当症例に良く思われたい気持ちは誰でもありますが、そのことが自分の行動にストップをかけてしまうと実習機能不全に陥ります。周囲環境が自らの行動に影響を与える事は当然ではありますが、ここは分けることが重要です。自らがコントロールできない事に対してエネルギーを使う事やそうした自分の傾向を知っておくことは大変重要だと考えられます。天候に左右されて実習に行く気持ちが起こらないというのが良い例です。天候は皆さんの制御不能事項です。そのような事項に左右されていたら、自分自身の制御は困難になります。実習環境も制御不能事項です。エネルギーを注ぐのは制御可能事項にしましょう。つまりは自分自身のことです。
 実習訪問の際に、指導者から「この実習生は良いPTになりますよ」と言われたことがあります。その理由を聞いたら、「誰も見ていないところで担当症例だけでなく、他の人の靴や車椅子を整理整頓してくれている」「指導者に評価される事がこの実習生の行動の原動力ではなく、自分以外のものに力を使う事だから」と言われたことがあります。
 実習指導者が実習生を注意する場合の多くは、実習生に変化を期待しています。問題は変化です。未知の事項であったのであれば、調べて自分で理解するということ、態度の問題の指摘であれば具体的にわかる態度の変化が期待されています。反省をしつづけることを期待されているのではありません。このところは非常に重要だと思います。私はいつも学生に「反省は深く短く30秒」として31秒目からは人が変われ!と。その際の「変化を起こす行動」が鍵だと思っています。実習生も落ち込み続けることが得策ではないことは分かっているはずです。しかしそのようなことを現実的にはしてしまっている自分との乖離に気付く力が重要なのです。
 では具体的行動としてどのようなことを行ったらよいかについて述べます。、具体的には表1のようなことを薦めます。稲盛1)は利己主義から利他主義への転換を人間としての成長課題に挙げています。実習中は自分のことばかり考えてしまうのではなく、症例のことを考えることが、自他共に有益なのです。
 また実習中は常に新しいことの連続です。新しい事が自分でできるようになる喜びを感じて、少しずつでもできるようになりつつある自分を褒めてあげてください。新しいことが可能になる事は自らの成長と深く関係していると考え率先して新しい事を選ぶようにしましょう2)。
 ケニーマクドナルド3)は「意思力」を強く持つ事の重要性を説いています。そのためには今の自分の状態に気付く力、すなわちメタ認知が強く関係すると考えられます。メタ認知はこの職業にとって不可欠な力4)ですから実習を通して自分の状態をチェックすることも重要です。指導者に褒められたら嬉しい、注意されたら落ち込むというだけでは、環境に常に左右されている事になります。少しずつで良いので環境に左右されるだけではない、自分自身の意思力を築きあげることが良い臨床実習につながると思います。メタ認知能力が少しでも上がれば、症例の問診中に「この方が本当に言いたい事は何なのか」に気づくことが増えるはずです。
5 おわりに
 私が今までに出会った優れた臨床家は、ほとんどの方が謙虚です。この先生方が今までに落ち込むことが無かった方は皆無だと思います。自分にできないことが多いことを知ると謙虚になるのかもしれません。しかし理学療法の実習は成功体験を掴み取るまでにややハードルが高いのかもしれないと思うことがあります。具体的に何ができれば自分が進歩しているかについて、明確な判断基準が明示されていないことがその理由かもしれません。また運動機能そのものが未だに解明されていないことが多い中で評価や治療を行わなくてはならないからだとも言えます。自分の評価や治療が奏功する実感を感じ取るまでには、恐らく数多くの失敗の経験が必要にも思います。薬の処方とは異なり、ある症例に対して行う理学療法が、全く同じにはなり難いこともその理由であります。これは理学療法全体の問題であって、少なくとも実習生の問題ではありません。そのような曖昧な部分がある中でも、症例に対して向き合うことが、一回り大きな人間になれる事だと私は信じています。
 さて本年は日本の理学療法が始まってから半世紀が経つ記念すべき年です。プロスポーツのように世界で活躍する理学療法士、あるいは日本から世界に発信する理学療法士はまだまだ少ないと思います。この50年は欧米からのリハビリテーションの輸入時代であったと言っても過言ではないと思います。しかしながら、これからは、皆さんが理学療法の質を高めるために活躍してもらわなくては困る時代に突入しています。世界は身近になり、ボーダーレスになっているのです。卒業したらどんどん世界に出てください。自分の視野を広げずに、いつも同じ人とばかり会話をしたり、自分の身分保全にエネルギーを使うのは無駄です。仕事を初めて同僚と比べて少し担当症例数が多いなどと小さい事の愚痴を言っていれば、尻穴が狭くなってしまいます。本物を見分け、自分の枠組みを広げて欲しいと心から思います。理学療法はエネルギーの向けどころを自然に他人へのベクトルに持っていける素晴らしい仕事です。そして臨床実習は入り口の入り口です。落ち込むなら練習だと思って・・・・・・・・・・

パワースポット写真付
SN3S0031.JPG






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西村圭二

福井先生へ

お久しぶりです。
滋賀の西村です。
読ませていただき、本当に共感できる内容ばかりでした。
今までいろいろな実習生を見てきましたが、やはり私が学生だった頃と比べると最近の学生は正直どこか違うなぁと思いつつ指導してました。私も歳を重ねておりますし、考え方や学生の受け入れ方も変わってきているのも事実ですが、指導者としても悩むことがいろいろあります。
そういう意味でも、この先生が書かれた内容は指導者の肩の荷を少し楽にさせてもらえる内容のように私は感じました。
これから、実習生も指導者も壁にぶち当たった時は福井先生の書かれたお言葉に互いに目を通して、人として人間として向き合っていこうと思いました。
また一つ勉強になりました。
では、またお会いできればと思います。
by 西村圭二 (2015-04-20 06:47) 

BENBEN7

圭二先生 コメント本当に嬉しいです。ありがとうございます。ブログの再開でまた新しいコミュニケーションが生まれるのを心より嬉しく思います。患者さんも実習生もSVも教員も皆人間なので、いろいろありますよね。尻穴拡大人生山あり谷あり実習と思うと大したことないと思えるかなあ?と・・・
新年度先生も新しい目標をお建てになっていると思いますが、また是非お会いできるのを楽しみにしております。それから滋賀の道の駅に行った際は是非お願いします。

by BENBEN7 (2015-04-20 06:58) 

有吉 悠

福井先生、お久しぶりです。
卒業して社会人となり、早3年が経とうとしております。
最近自分の周りの知り合いがあらゆることで変化しており、これに影響していることもあるとは思いますが、自分は将来どんなPT、いやどんな人生を歩んでいきたいのかとあれこれ考えることが多くなりました。
初心に戻ったり、色々な世界を眺めてみたり…
そこで高校3年の頃の12月20日を思い出しました。
文京のオープンキャンパスで福井先生が30分ほどお時間をつくってくださり、1対1で学生にもなっていない自分の将来の悩みを親身になって聞いていただいたことです。忘れもしません。本当に、ありがとうございました。

1年近く経ってはいますが、このブログの記事を今、読ませていただきました。
調べる、考える、練習する…
良い意味で周りを意識した自分の立場や行動…
実習においても、今の自分にとっても、非常に大切なことであると改めて気付かせていただきました。
目の前にあるものでも、悩んだりめんどくさがったりせずにまずはやろうと思います。

余談になりますが、今年度1年かけてひと月に1度開催しているセミナー、来年度も開催していただけるのであれば参加しようと思っております。その時はまた、よろしくお願いします。

突然失礼致しました。
今年こそ文京生の国試全員合格を祈っております。

文京4期 有吉
by 有吉 悠 (2016-02-07 19:05) 

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